ルーマニアの陶器
「陶器は割れるもの。人間が使っていて割れたら動物の餌いれになり、そこで割れて土に還っていくだけ。」
これはルーマニアのある陶工の老婦人が話してくれた言葉です。
ルーマニアの代表的な陶器は精緻な文様や色遣いがされているわけではありませんが、弥生土器を見るような野趣に富んだ無釉薬の陶器、手慣れた筆致で花鳥文や幾何学模様が施されています。
陶器は消耗品であって、割れるものと理解されているからこそ生み出される素朴な陶器類は見る人にとって非常に魅力的に見えるのではないでしょうか。
陶器の産地
陶器の産地はルーマニア全土に広く分布し、各地にみることができます。
代表的な産地は、ホレズ(ワラキア地方ヴァルチャ県)、コルンド(トランシルヴァニア地方ハルギタ県)、バイアマーレ(トランシルヴァニア地方マラムレシュ県)、マージニア(モルドヴァ地方スチャヴァ県)です。
陶器の役割
作られた陶器はいうまでもなく家庭での食器(甕、瓶、水差し、花器、皿、鉢、カップなど)として利用されます。水やミルクを入れるための甕、食料貯蔵のための瓶、壺、調理用具(なべ類、パン焼型など)、畑や山に食料を運搬するための器類などが、まず発展した後に皿、鉢などが作られるようになりました。農村地帯では水、ミルク、食料品、サルマーレなどの貯蔵に現在も使用しているところもありますが、大方の人々の日常生活には磁器や耐熱ガラス食器が多く用いられ、陶器は姿を消しています。
第2の目的として装飾として使用されます。欧米では棚に皿を飾る風習が強く残っており、多くの家庭の応接間、台所には食器類をみることができます。また、blideと呼ばれる皿類は、壁の装飾であるとともにキリスト教以前の信仰と結びついた役割を持っています。これは、マラムレシュ地方の木造の門に代表されるように、ルーマニアには外と内、聖と俗を分ける意識が強いため、窓や竈など、外界と家の中を隔てる境界には、皿や織布を掛けて悪いものの侵入を防ぐ意味があります。
しかし、全体的には日常生活はもちろんのこと、民族的な行事で使用される側面も薄れてきています。それは市場をみれば明らかで、ルーマニアの陶器は装飾品や土産物的な部分と、安価な生活道具的な部分とに二極化してきているようです。
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